パシフィックムーン(コロムビア)CHCB-10080 定価¥2667+税 2008年4月23日リリース
伝統の美を表現した「雅」に続く最新アルバム
雅な時代の優しさや温もりをピアノで想い描いている
音楽も写真も 絵画的な美しさにあふれた作品に仕上げた全14曲
1、そよ風のワルツ
2、春色に染まって
3、朝もや
4、夏の忘れ物
5、ふる里の便り
6、よみがえる想い
7、潮彩
8、星のささやき
9、ひなたぼっこ
10、冬の足音
11、かえり道
12、氷雨にただよって
13、遠い鐘の風音
14、エピローグ
録音:2008年1月 WATANABE STUDIO ( Piano : スタインウェイ フルコンサートグランド D-274 )
ライナーノーツより
光あふれるおだやかな季節。
そよそよと風と戯れる一葉一葉が、ほがらかに軽快にステップを踏む。
「作曲する際は、あたかも目の前に景色が浮かんでくるように曲を創りたい」・・・そう語る渡辺氏の思いを映すかのごとく、オープニング曲「そよ風のワルツ」は、一瞬で景色のみならず風のさわやかさまで体感させてくれる。
まるで珠玉の風景画が並んだ美術館を訪ねたような心持ちになる、渡辺雅二のニューアルバム「雅 II 」。一曲ごとに、雅やかな光景が聴き手の頭のなかの額縁に描かれ、一枚の美しい絵画となって完成してゆく。
音のイメージをタイトルの漢字にあてた「潮彩」では、夕暮れ時の波しぶきが目に浮ぶ。「自然が見せる変幻自在なグラデーションに魅了される」という渡辺氏。キラキラと瞬くように光る七色の波が、目前に迫ってくるかのような作品だ。
一転して、水墨画のごとく “静”を描いた作品が「冬の足音」。どこもかしこも一面真っ白な雪景色に、なおも天上から雪が降り注ぐ。しんしんと音もなく降り積もってゆく粉雪・・・その完全なる静寂。「無音の風景を音で描いてみたかった」という、渡辺氏の意欲作ともいえる一曲である。
「遠い鐘の風音」は、真っ赤な夕日が微笑んでくれるように感じられる、郷愁に満ちた作品。美しい日本の山並みに抱かれたふもとの村々。寺の鐘の音がやさしく響きわたるころ、子どもたちは家路を急ぎ、家々の台所から夕げの匂いが漂い始める。そこには、風景のみならず情景さえも丹念に描きこまれている。
「今回のアルバムでは、雅やかな時代に息づく人々の想いや優しさをも表現したかった」と語る渡辺氏。優美な風景のなかに人の営みをも垣間見せる作品も織り込み、端正な絵画のような一曲一曲に深い奥行きをも与えている。
実は風景写真の名手でもある渡辺氏。このアルバムにも、日本の四季をとらえた氏の写真がいくつかおさめられている。自然が織り成すたまゆらの神々しい風景は、彼の曲づくりにおいて欠かせないイメージソースとなっているらしい。
それにしても、多彩な風景を描きながら、彼の作品が一貫してこれほどまでに卓越した透明感を持ちえるのはなぜだろう?
どれほど色を重ねてもまったくにごりを見せない、完璧なまでの清澄さ。
絵画の世界でいうなら、それはまるで、スーラの点描画のようなものである。
いっさいの妥協を許さない一音一音へのこだわり。研ぎ澄まされた音のレンガを慎重に丁寧に積み重ねたような和音の数々。繊細かつ精緻なピアノタッチ。
色彩豊かな音のパレットから念入りに選び出された音の絵の具が、彼の楽譜の上で根気よく塗り重ねられていくことで、比類ない透明度が構築されるのだろう。
一点の曇りもない雅な音の点描画の数々、ぜひ、心ゆくまで鑑賞してほしい。
上野まゆこ